賃貸面積が増える? 賃料はずっと上がり続ける?
世界の不動産情報 ~ニューヨークのオフィス賃貸借慣行~
昨今では、分散投資の考え方が浸透し、またインターネットの発達によって多くの情報が容易に取得できるようになったことから、日本にいながら海外の不動産に投資している方が増えてきました。そこで、OwnersBookでも海外不動産のマーケット慣行や取引慣行等について、みなさんに積極的に情報提供していきたいと思います。まずは、誰もが知っている都市、アメリカ(米国)のニューヨークについてです。
そもそも、アメリカではなく、ニューヨークに限定してお話させていただくのは、アメリカは州によって取引慣行や賃貸借慣行が異なっているからです。特に、ニューヨークでは、日本ではありえないような非常識な考え方が常識になっていたりすることもありますので、まずはそのあたりからご紹介させていただきます。
賃貸借期間・賃料改定について
まず、日本のように借家人を保護する制度は基本的にはあまりありません。したがって、日本でいう定期建物賃貸借契約(賃貸借期間が終わったらテナントは出ていくか、賃貸借契約を新たに締結する必要があるもの)が一般的です。期間は5~10年が多く、その間の中途解約は基本的にはできません。
賃貸借期間中の賃料は固定であるか、もしくはエスカレーション条項がついており、賃料が期間中に段階的に上昇するケースが一般的です。この場合、賃料は、以下の計算式で算出されます。
契約賃料 = Base rent(基本賃料)+ Escalation(段階的上昇分)
このように、賃料が段階的に上昇する契約を借主側(テナント側)が受け入れることがニューヨークでは一般的ですが、それは、貸主側(オーナー側)の立場が強いということもありますが、テナント側もオーナー側も「賃料はずっと上がっていく(下がらない)」ものだと考えている、というニューヨークにおける当事者意識が背景にあると思われます。日本や香港、シンガポール等のアジアの国々では、賃料は景気によって左右されて上がったり下がったりするものであると考えられているのではないかと思いますので、日本人である私には、「賃料が下がらない」と考えるのは、なかなか受け入れられませんが、欧米の国々での基本的な考え方は、「賃料は上昇するもの」だと思います。国が変わると意識は全然違うものになり得ますね。
そのほか、フリーレントがあったり、オーナー負担で内装工事をしたりといったところは多くのアジアの国々と一緒だと思います。また、賃貸借期間が長く、中途解約ができないので、サブリースも一般的に行われています。
賃貸借面積は信じないようにしましょう!
とてもユニークな慣行の一つに、『賃貸借面積は実際の面積と違う』という点があります。ニューヨークでの賃貸借契約に使われる面積は、一般的にRentable Square Footage、つまり賃貸可能面積であり、RSFと略されます。例えば、賃貸借契約上のRSFの面積が9,000 sq.ft(約840㎡)だったとします。日本であればこれが実際に使用可能な面積と考えるのが普通だと思います。しかし、ニューヨークでは、このRSFは実際に使用可能な面積とは異なるのが通常です。実際に使用可能な面積はUsable Square Footage、つまり使用可能面積で、USFと略されます。上記の例では、USFは7,200sq.ft(約670㎡)で、RSFと20%近く差があるというようなケースがよくあります。
なぜこのようなことが慣行としてまかり通っているのかは、日本人の私には正直よくわからないところですが、テナントが入れ替わる度に賃貸面積は増えていくことがニューヨークでは普通にあるそうです。よくマーケットで聞く話として、ニューヨークで有名だったワールドトレードセンターでは、賃貸借面積を合計すると、ビルの延べ床面積の1.2~1.3倍もあったそうです。日本ではあり得ない話ですね。
ちなみに、このRSFとUSFの差のRSFに対する割合は、ロスファクター(Loss Factor)と言われ、現地の不動産投資家の間ではよく耳にするキーワードです。
最後にもう一つ、日本とは異なる慣行をあげておくと、マンハッタンではあまり築年(建物を建築してから何年経っているか)は賃料に影響しません。それも、ニューヨークは東海岸に位置しており、地震が基本的にないため、一度大きなビルを建てたら末永く使うという考え方が普及しているためだと思われます。したがって、日本のように古くなれば賃料は下がる、という考え方は、ニューヨークでは適用されないのが一般的です。
世界経済の中心であるニューヨークでの不動産賃貸借慣行の一部をご紹介させていただきました。海外不動産への投資を検討されている方のご参考になれば幸いです。
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