投資家が、実際に不動産などの投資向け商品を購入する際には、購入代金を一括で支払いをする場合もありますが、ローンを利用するケースが一般的です。
ローンを利用するということは、どんなに好条件の投資用不動産を購入した場合であっても、将来的に返済が滞るリスクが存在することになります。
このような、投資を行う際の借入金に対する安全性やリスクを検討する際に用いられる基準が「DSCR」です。
目安水準は1.2以上!DSCRの求め方
DSCRの正式名称は「Debt Service Coverage Ratio」(デット・サービス・カバレッジ・レシオ)で、日本語では「元利金返済カバー率」と訳されます。
これは「不動産から得られる収益によって、借入金の返済をどの程度カバーできるか?」を示した数値のことで、不動産や証券自体の優劣性、借入金を返済する際の安全性の見極め、さらには金融機関の融資判断に用いられています。
DSCR = 年間の「NOI(正味稼働利益) ÷ 元金と利息の返済額」
DSCRは、年間の「NOI(正味稼働利益)÷ 元金と利息の返済額」という式によって算出されます。
例えば、年間1000万円の正味稼働利益がある不動産に対し、年間の返済額が500万円だった場合のDSCRは、1000万円 ÷ 500万円という計算により、2.0となります。
DSCRの数値は、大きい方が返済に余裕があるとみなされて金融機関からの融資が受けやすくなります。最低水準でも1.2以上、1.5以上あれば理想的です。
但し、これはあくまでも目安の一つであり、実際には収入と返済のバランスを示すDSCRだけではなく、不動産の価値に対する負債額の割合を示すLTVなども勘案し、総合的に融資の可否が判断されます。
なお、DSCRの数値が1.0を下回る場合、投資する不動産からの収入のみでは借入れの返済分をカバーできないと認識されるため、金融機関からの融資が難しくなります。
不動産から得られる収益によって借入金をどの程度返済できるかを示した数値で、最低でも1.2以上、1.5以上あれば理想的と言われている。
・LTV
不動産価格に対する負債の割合を示した数値で、負債額を不動産価格で割って算出。例えば価格3億円の不動産に対し2億4,000万円の借り入れをした場合には、「LTV」は80%となる。
金融機関のローン審査においては、DSCRとLTVがロ-ンの安全性を判断する上での重要な基準とされています。
NOI(正味稼働利益)とは
DSCRについて正確に理解するためには、算出において重要となる「NOI」について正しく理解する必要があります。
NOIは、不動産賃貸を行うことで生み出される純粋な利益のことを指します。「Net Operating Income」(ネット・オペレーティング・インカム)を省略した言葉で、「正味稼働利益」や「純営業収益」などと表記されることもあります。
NOIは、不動産保有期間中に得られる家賃などの総収入から、税金や管理費用、保険料、空室部分の家賃などの支出経費を差し引いて算出された数値です。
NOI = 総収入 – [税金(固都税) + 管理費用 + 保険料 + 空室部分の家賃 + 光熱費等の支出]
いわば純利益のことを示すNOIですが、不動産のNOIを算定する場合に経費として差し引かれる対象は、税務上で控除される経費とは内訳が異なります。
具体的には、不動産建物の減価償却費用や修繕費、借入金の支払利息などの項目は、NOIの計算においては経費としてカウントされません。
また、借入金の元本返済分もNOIの計算には含まれません。
投資を成功させるDSCRの見方は?
DSCRは、不動産が生み出す純利益を示すNOI(正味稼働利益)を用いて計算するケースが一般的ですが、NOIではなく、不動産の現状にかかわらず満室稼働とみなした想定NOIを用いて計算されている場合もあります。
想定NOIを用いて計算されている場合には、空室が発生した場合のリスクなどが見えにくい場合があるので注意が必要です。
不動産購入を検討するときは、表示されている数値と実際の収益にズレがないか、キャッシュフローの流れが円滑であるか、さらには不動産購入時に借り入れた資金を、継続的に返済できるのかなどの要素を併せて見極めるようにしましょう。
DSCR = 年間の「想定NOI(想定正味稼働利益) ÷ 元金と利息の返済額」
もし、購入検討中の不動産のDSCRの計算で想定NOIが用いられていた場合には、実際に手にする家賃収入との違いなどに注意しなければなりません。
例えば、満室時に得られる年間のNOIが1000万円の物件を購入し、年間の元利金返済額が500万円だった場合のDSCRは、1000万円 ÷ 500万円 = 2.0となります。
しかし、上記はあくまで満室時のDSCRであって、実際には空室部分がある場合や、また、不動産の立地や内容から満室稼働を維持することが難しい場合には、満室時の想定NOIではなく実際のNOIに基づきDSCRの数値は低下することになります。
例えば、満室時に得られる年間のNOIが1000万円の物件に、約4割の空室が発生し、年間のNOIが600万円まで減少した場合を見てみましょう。この場合には、実際の収入ベースでみたDSCRは、600万円 ÷ 500万円 = 1.2となり、より低い数値となります。
実際には4割程度空室となった場合(年間NOI600万円)のDSCR = 600万円 ÷ 500万円 = 1.2
実際に不動産を購入する際は、ローン契約を結ぶケースが一般的です。
不動産への投資判断においては、ロ-ン条件(融資金額)とのバランスを図り高めのDSCRを確保することが理想的ですが、その前提として現実的なNOIを見極めることが非常に重要です。
また、LTVを低く抑えることでもDSCRを高めることができます。相応に自己資金の負担が必要にはなりますが、借入額を抑えることで返済負担が軽減し、その分DSCRが高くなります。
不動産の運用においては予期せぬリスクが発生することもあります。なるべく高いDSCRを確保することで、予期せぬリスクに備えましょう。
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