不動産投資を行うにあたって押さえておくべきポイントの一つに「減価償却」があります。
減価償却という単語は聞いたことがあっても、その意味をきちんと理解している人は少ないのではないでしょうか。今回は、減価償却の仕組みについて詳しく説明します。
減価償却とは
減価償却とは、「減価償却資産」を得るときに要した金額を、「使用可能期間」にわたって、各年分の必要経費として分割・配分していく手続きのことをいいます。
減価償却資産とは
建物や機械等、年月を経るにつれてその価値が減っていく資産のことを「減価償却資産」といいます。一方、土地や骨とう品等、年月を経ても価値が減少しない資産は、減価償却資産ではありません。
使用可能期間とは
各減価償却資産の使用可能期間は、「減価償却資産の耐用年数」として、財務省令により定められています。一般に、住宅よりも事務所の方が、使用可能期間(耐用年数)が長い傾向にあります。
使用可能期間(耐用年数)の例
- 住宅(木造・合成樹脂造):22年
- 住宅(れんが造・石造・ブロック造):38年
- 住宅(鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造):47年
- 事務所(木造・合成樹脂造):24年
- 事務所(れんが造・石造・ブロック造):41年
- 事務所(鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造):50年
減価償却資産を得るときに掛かった金額は、取得した時点で全額を一括して費用に計上するのではなく、その資産の使用可能期間(耐用年数)の全期間にわたって分割して減価償却費として計上していくことになります。
費用を分割する方法には「定額法」や「定率法」という種類がありますが、建物や建物附属設備については、「定額法」が採用されています。
定額法とは
定額法とは、資産取得費用を使用可能期間にわたって、毎年同じ費用に分割する方法です。定額法では、減価償却費を次のように計算します。
◯ 減価償却費 = 資産取得費用 ✕ 定額法の償却率
「定額法の償却率」は財務省令で定められており、使用可能期間が5年の場合は0.2、10年の場合は0.1、50年の場合は0.02といったように、1年区切りで決まっています(資産の取得時期により償却率は異なります)。
例えば、鉄筋コンクリート造の新築事務所用建物(使用可能期間50年)を5,000万円で取得した場合、5,000万円✕0.02=100万円を、減価償却費として毎年計上していくことになります。
なぜ減価償却は必要なのか?
それでは、なぜ減価償却は必要なのでしょうか。減価償却のメリットとして、毎年支払う所得税の負担が減少することが挙げられます。
不動産所得における所得税の課税対象は、以下のように計算されます。
◯ 課税対象 = 総収入金額 ― 必要経費
ここで、減価償却費は必要経費として認められることから、減価償却を行うことで差し引かれる必要経費が多くなれば、その分だけ課税対象が少なくなり、支払うべき税金も少なくなります。
結果として、手元に残る現金が多くなることから、キャッシュフローにプラスの影響をもたらすということができるのです。
注意しなければならないリスク
ここまで減価償却の方法やそのメリットを紹介してきましたが、注意しなければならないリスクもいくつか存在します。正しくリスクを把握しておくことが大切です。
税務調査時の指摘
何軒も不動産を所有していたり、必要経費として様々な費用を計上したりしていると、税務署による税務調査が実施される可能性があります。
減価償却に関して、税務調査で気を付けるべきポイントには以下のようなものがあります。
- 使用可能期間:財務省令によって種類や構造ごとに使用可能期間が定められています。所有している不動産の正しい使用可能期間を把握しましょう。
- 建物・土地比率:建物は減価償却資産で、土地は減価償却資産ではありません。売買契約書や固定資産税評価額等を用いて、建物部分の資産取得費用を算出する必要があります。
- 償却方法:2016年度税制改正により、建物附属設備の償却方法が「定額法」に一本化されています。
誤りが発覚すると、税務調査後に追徴課税をされることもあり得るので、注意するようにしましょう。
売却時に税金が高くなることも
また、減価償却費を多く計上することで、売却時に税金が高くなる可能性もあります。
不動産の売却時に得る利益は譲渡所得に区分され、所得税が課されますが、譲渡所得の課税対象は、以下のように計算されます。
◯ 課税対象 = 譲渡価額 -(取得費 + 譲渡費用)- 特別控除額
取得費とは、不動産の購入代金にその後の改良費等を加えた合計額のことをいいますが、建物の取得費については、保有期間中の減価償却費を差し引いて計算します。
つまり、売却不動産の保有期間中に減価償却費を多く計上するだけ、売却時の売却益が多くなる(課税対象が多くなる)ことから、支払うべき所得税が高くなるのです。
なお、以下で示すとおり、不動産の保有期間が5年を超えるかどうかで税率が15%変わることから、不動産を売却するタイミングも重要だといえるでしょう。
◯ 譲渡所得税額の計算
- 短期(5年以下):税額 = 課税譲渡所得 ✕ 30%
- 長期(5年を超える):税額 = 課税譲渡所得 ✕ 15%
不動産投資の収支予測を立てる際は減価償却も考慮が必要
今回は、減価償却の仕組みについて解説いたしました。減価償却について正しく理解し、事前に費用や収益の予測を正しく立てた上で、不動産投資を行うことが大切だといえます。
なお、本投稿の税務に関する記述は弊社独自の見解です。当該記述に基づく経済的損失等には一切責任を負いかねますことを、予めご了承ください。必要に応じて、税理士や行政の窓口にお問い合わせください。
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