東日本大震災を受けて、不動産の地震対策が重視されるようになりました。その中でも、近年再注目されているのが地震保険です。しかし、地震保険はその性質上、賃貸経営のリスクヘッジに必ずしも最適とは言い切れません。
今回は不動産投資を考えている人に向けて、地震保険について解説いたします。
地震保険とは
一般に、火災保険では、地震を原因とする火災等の損害は補償されません。 それに対し、地震保険は、地震・噴火またはこれらによる津波を原因とする火災・損壊・埋没・流失による損害を補償する保険です。地震保険単独での契約はできず、火災保険とセットで契約する必要があります。
制度の趣旨
地震保険は、地震の被害に遭った人の生活再建のために、当面必要となる資金を確保することを目的としています。損壊した建物の再調達資金の確保を目的としたものではないため、地震で建物が大きく壊れた場合、被害の全額や修繕費の大半を地震保険でカバーすることは難しいと考えられます。
保険金について
地震保険では、建物や家財ごとに保険金額を決定し、保険の対象である建物や家財が地震等により損害を受けたときに保険金が支払われます。現在の制度では、被害の程度に応じて全損・半損・一部損の3段階に区別され、それぞれ以下の金額が支払われます。
※2017年1月以降は、半損が「大半損」と「小半損」に細分化され、4区分となります。
<全損>
- ・主要構造部(土台、柱、壁、屋根等)の損害額が、時価の50%以上
- ・焼失もしくは流失した部分の床面積が、その建物の延床面積の70%以上
- ・家財全体の時価の80%以上が損害を受けた場合
→「全損」として時価を限度に契約金額の100%が支払われます。
<半損>
- ・主要構造部の損害額が時価の20%以上50%未満
- ・焼失または流失した部分の床面積がその建物の延床面積の20%以上70%未満
- ・損害額が家財全体の時価の30%以上80%未満となった場合
→「半損」として時価の50%を限度に契約金額の50%が支払われます。
<一部損>
- ・主要構造部の損害額が、時価の3%以上20%未満
- ・建物が床上浸水もしくは地盤面より45cmをこえる浸水を受け損害が生じた場合で、全損・半損に至らないとき
- ・家財全体の時価の10%以上30%未満が損害を受けた場合
→「一部損」として時価の5%を限度に契約金額の5%が支払われます。
地震保険には入るべき?
東日本大震災のとき、保険会社は震災の規模と社会的な影響を踏まえ、被害審査を柔軟に行い、できる限り保険金を支払うスタンスで査定を行っていました。しかし、鉄筋の露出やコンクリートの潰れ等が数多く発生している等の致命的な被害がない限り半損認定とはならず、大きな被害を受けた宮城県でさえ、支払いなし:約10%、一部損:約75%、半損:約15%で、全損として認定されたのは全体の1%以下にとどまったそうです 。東京近郊では約9割が一部損認定で、ほとんどの人が契約金額の5%の受け取りにとどまってしまったそうです。
つまり、現在の地震保険の制度では、「人命には影響はないが、大規模修繕工事をしなければ賃貸募集に支障が出てしまう」程度の被害はうまくカバーできない可能性があります。
地震保険料の料率
地震保険料は、物件の所在地や建物の構造により大きく異なります。保険料率は随時改定されていますが、保険料は全国的に見て値上がり傾向にあります。
仮に、都心の耐火建築物について考えてみましょう。保険金額5,000万円の地震保険に加入する場合、支払う年間保険料は通常10万円ほどになります。これを前提とすると、一部損認定で受け取る額は250万円ですので、受取額は年間保険料の25倍ほどになります。
そのため、建物がまだ新しいうちに大きな地震が来て、自分の保有する物件に目に見える損害が出ると予想するのであるならば、加入を検討するべきだと考えられます。
なお、保険料が東京の1/3以下の地域もあります。そういった地域で津波や地震の心配がある場合は、万が一に備えて地震保険に入っておくことが安心につながるかもしれません。
条件等総合的に勘定して判断する
プロの投資家が参加するような不動産ファンドでは、地震PML(予想最大損失額)を計算し、大地震の際に建物にどの程度の被害が出るのかを想定し、被害額が大きくなりそうな物件に限定して地震保険に加入する等の対応を行っているようです。しかし、地震保険はコストが高いと考えられているため、付保していない物件のほうが多いようです。
これまで見てきたように、地震保険の制度趣旨は損壊した建物の再調達資金の確保ではないため、被害額の全てをカバーすることはできず、地震保険に加入すれば安全、とは言いきれません。どの程度の被害に対していくらの払戻金があるのか予め具体的にイメージした上で、ご自身の投資検討物件に地震保険は有用となりうるのかを判断することが重要となってくると思います。
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